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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

猫の映画館

猫の映画館

ボクの家の隣には古くて小さな映画館がある。だけど数ヶ月前、館長のおじいさんが亡くなって閉館してしまった・・・

ボクはその映画館が大好きだった。
映画が大好きだった。
館長さんが大好きだった。
だから、数ヶ月経った今でも凄くさみしい・・・

そのせいか時々、聞こえるはずのない映画の音が聞こえてくる気がしてたまらなかった。

「やっぱり気のせいか・・・」

と、窓を開けては見てみるけど、やっぱり閉まったままだった。見えるものといえばいつの間にか映画館に住み着いたノラ猫のニャジロウだけ・・・

「またあいつ寝てる・・・後で何か持って行ってやるか」

元々、猫好きだったボクはすっかりニャジロウと仲良しになっていた。

そうして、しばらくニャジロウを見ていると、もう1匹やって来た。

「あっ、高藤さんちのテツだ・・・」

すると、ニャジロウはむくっと起きてテツと一緒に映画館へと入っていった。

「・・・猫の集会場になってたりして・・・」

そういえば映画館が閉館してからやたらと猫を見かけるようになった。それにノラ猫も増えたような気がする・・・

「ひょっとして本当に・・・」

そんなことが気になっていたある日の早朝、ボクは不思議な体験をすることになった・・・

ドン・ドン・ドン!

ボクが寝ていると勢いよく誰かが玄関を叩いた。

「う~ん・・・4時?こんな朝早くに誰?」

目をこすりながら玄関を開けると・・・誰も居ない。

「いたずら?まったく・・・」

ボクが玄関を閉めようとすると

〔ここだよ!〕

と、下から声がした。ふと、下を見るとニャジロウがすました顔で立っていた。

「なんだ、まだ夢の途中か・・・」

ボクがつぶやくとニャジロウは

〔夢?まぁ、そう思っていればいいさ〕

と、微笑んだ。

「ニャ、ニャジロウがしゃべった!」

ボクは強く目をこすった。

〔なんだ、あらたまって夢なんだから驚くことないだろ?〕

「そうか・・・夢なんだものね。それで?ボクに何か用?」

〔リョウは映画館が明日から取り壊されるのを知っている?〕

「えっ!本当に?・・・全然知らなかった・・・」

〔3日前に工事の下見に男がやって来たから間違いない〕

「そんな・・・」

〔寂しいだろ?〕

「うん、もちろん・・・」

〔そう思って今日は誘いに来たんだ。世話になってるし友達だからな〕

「誘いに?」

〔そうさ、今日は最後の上映なんだ〕

「上映ってまさか・・・」

〔そのまさかさ〕

「でも、もうとっくに閉館しているのに・・・誰が?」

〔誰ってオレさ。オレは今、あの映画館の館長なんだ、閉館してからは猫のための猫の映画館だったのさ〕

「ニャジロウが館長?猫の映画館?・・・」

ボクは混乱した。

〔戸惑うのも仕方ないが、上映までもう時間がないんだ。一緒に行くのか行かないのか、どうする?〕

「・・・そりゃ行きたいけど・・・行ってもいいの?」

〔そりゃ、そのままでっていうのはまずい。リョウも猫になってもらわないとな〕

「えっ、ボクが猫に?」

〔そうだ〕

「本当に?」

ボクはずっと猫に憧れていたので喜んだ。

〔なれるさ、コレでな〕

ニャジロウはボクに大豆ぐらいの大きさの紫色をした粒をさし出した。

「な、何?・・・」

〔リョウが猫になれる薬みたいな物だよ。と、いっても3時間くらいしか効き目がないから心配しなくても大丈夫だ〕

ボクは紫色の粒を受け取った。

「・・・」

なんとも毒々しい・・・

〔どうした?喜んでいたのに、オレが信用できないのか?〕

「そうじゃないけど・・・水で飲んでもいい?」

〔いいけど本当に行く気があるんなら急いでくれよ〕

「分かった!」

ボクは急いで水を口にふくみ、紫色の粒を口に押し込んで一気に飲み込んだ。

ゴクンッ!

〔よし、そのまま目を閉じて左に2回、右に1回、まわって!〕

「うん・・・」

ボクは言われたとおり目を閉じてまわった。

〔おぉ・・・いいぞ、成功だ。目を開けて〕

「・・・」

ボクはゆっくり目を開けた。

「!・・・この手、この足・・・あっ、シッポに耳も・・・」

ボクは猫になっていた。

「ニャジロウ!ボク、猫になってる!」

〔あぁ、どこからどう見ても立派な猫だ。それも超ハンサム猫だぞ〕

「やったー!」

ボクは飛跳ねて喜んだ。

〔ほら、嬉しいのは分かったから、急いで行かないと〕

「うん、行こう!」

ボクたちが表に出ると沢山の猫たちがずらずらと映画館に入っているのが見えた。

「すごい数だね・・・」

〔最後だし、今日は猫曜日だからな〕

「猫曜日?」

〔ちょうどリョウたち人間がいう日曜日と月曜日の間にある日だよ〕

「日曜日と月曜日の間の日・・・」

〔自由気ままにのんびりとしてるからオレたちの時間は多いのさ〕

「分かるような分からないような・・・」

猫たちの列に並んで入り口に着くと、高藤さんちのテツがチケットを売っていた。

〔よう、テツ、ご苦労さん〕

〈あっ、ニャジロウさん!成功したんですね。リョウさん、ようこそです〉

「どうも・・・」

〈どうぞ、お入りください〉

「ありがとう・・・」

テツはてっきりやんちゃだと思っていたけど、意外と丁寧でさわやかだった。

そして、中に入ると以前と同じように猫がポップコーンとドリンクを売っていた・・・

「お魚味にマタタビ味?・・・ドリンクはやっぱりミルクか・・・」

〔リョウ、ポップコーンいるか?〕

「いや、遠慮しとくよ」

〔そうか、最高に美味しいのに〕

「あっ、今は猫なんだ・・・やっぱりお魚味のを1つもらうよ」

〔そうじゃなくっちゃ、もらってくるから待っていてくれ〕

ニャジロウはそう言ってポップコーンをもらってきてくれた。

クンクン・・・

「いい匂い・・・」

パクッ!

「美味しい!意外とあっさりしているね」

〔だろ?作りたてだしな、良かったな〕

「うん」

〔さて、そろそろオレは映写室に行かなくちゃいけない。リョウには指定席を用意してるからゆっくり映画を楽しんでくれ〕

と、ニャジロウはボクにチケットの半券を渡した。A-11と書いてあった。

「えっ、ボク一人なの?」

〔それを言うなら今は1匹だろ(笑)それに映画を見るのにオレは必要ないさ。終わってからまたな〕

「分かった・・・」

ボクは1匹、取り残された。当たり前だけど場内は猫だらけ・・・ボクは仕方なく席を探して座った。

「懐かしい・・・」

場内の雰囲気も座席の座り心地も変わらずにいた。

「あっ、タバコ屋の猫・・・あっ、公園に住んでいる家族だ・・・」

場内を見渡すと知った顔ぶれが沢山いた。きっと本当に街中の猫たちが集まっているんだろう。

そうして、ボクがキョロキョロしながら上映を待っていると、とってもキュートな猫が隣に座った。

〈なんとか間に合ったわね〉

「・・・」

〈あら、見かけない顔ね〉

「ど、どうも・・・リョウです」

〈わっ、ハンサム・・・私はサリー。よろしくね〉

「う、うん・・・」

ボクは猫相手に本気で照れていた。だって本当にキュートでセクシーなんだもの・・・

〈ねぇ、良かったら今度、屋根の上でデートしない?〉

屋根の上でデート・・・それこそ夢のような話だった。

「うん、ボクはこの映画館の隣に住んでいるんだ、暇な時に寄って」

〈分かったわ、今度遊びに行くわね〉

「うん・・・」

ブーーッ

〈あっ、始まったわ〉

ブザーが鳴り、灯が消えて映画が始まった。

タイトルは『猫のなる木』・・・ノラ猫たちが活躍するメッセージストーリーだった。もちろん猫だけしか出てこないけどとっても感動して面白い映画だった。サリーは涙を流していた。

〈泣いちゃった・・・良かったね〉

「うん、続きがありそうだね」

〈あるんじゃない、ここではもう見れないけど・・・〉

「寂しいね・・・」

これで終わりと思ったら本当に寂しかった。

〈でも、最後にあなたと出会えたと思えば・・・約束、忘れないでね〉

「うん・・・」

そうして、サリーや他の猫たちは退席していった。

〔終わってしまったな〕

灯がつくと同時にニャジロウが戻ってきた。

「うん・・・寂しいね」

〔そうだな、ここは本当にいい映画館だったよ・・・〕

「ありがとうね、最後にボクを誘ってくれて」

〔何言ってるんだ、友達だろ〕

「そうだね・・・」

〔もう時間だな〕

「えっ、もう・・・」

〔さぁ、目を閉じて〕

ボクは目を閉じた。

「これは夢なんだよね、だから何度でもここで会えるよね」

〔さぁな、でもまた会えるといいな・・・〕

そのニャジロウの言葉を最後にボクは気を失った・・・

そして、本当に目を覚ますと、ボクは布団の中にいた。

「やっぱり夢だったのか・・・」

ほっとしたような残念のような気がした。

「・・・」

ボクは起き上がって、ふとポケットに手を入れた。すると・・・

「A-11・・・夢じゃなかった?」

ボクは慌てて窓を開けた。

「あっ!工事が始まっている!」

ボクは慌てて映画館に走った。

「ニャジローー!」

ボクは精一杯叫んでニャジロウを探した。でも、いくら探してもニャジロウの姿は見当たらなかった・・・

それからしばらく経って、すっかり映画館の姿形がなくなった頃、ボクの家に1匹の可愛い猫が訪れた。サリーだった・・・サリーは何かくわえていた。

「サリーだね、何をくわえているの?見せて」

サリーのくわえていたのは隣町の映画館のチケットだった。

「続・猫のなる木・・・」

もちろんボクはサリーを抱えて走った。

                     
                   終わり。


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